フォトグラメトリによる3D再構築技術の発展と応用
フォトグラメトリによる3D再構築がもたらすインパクト
3D再構築は近年注目を集める分野であり、Neural Radiance Fields(NeRF)やGaussian Splattingといった革新的な技術の発展により、その人気が急速に高まっています。これらの進歩により、物理的な物体や環境を正確にデジタルで表現できるようになり、さまざまな業界に変革をもたらしています。
本記事では、3D再構築技術によりこれまでの課題をどのように解決できるのか、そして最新技術がどのように革新をもたらすのかについて解説します。
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3D再構築の主な応用分野
主な応用分野として以下の領域が挙げられます。
建設業界
- 現場調査: 建設開始前に3D再構築を利用してエリアをマッピングし、デジタル測定を行うことで、正確な計画と資源配分を実現します。
- 品質管理: 再構築した3Dモデルを3D CADモデルと比較することで不一致を特定・修正し、最終的な建造物が設計仕様を満たすようにします。
歴史的建築物の修復
- モデル作成: 歴史的建築物の3D再構築モデルを作成し、修復プロジェクトにおいて建築家や保存技術者に詳細な参考情報を提供します。
- 損傷解析: 3D再構築モデルを使用して損傷箇所を検出・解析し、的確な修復作業を促進します。
医療画像
- 手術計画: 3D再構築による詳細な解剖学的モデルで手術計画をサポートします。
- リアルタイム支援: 手術中にリアルタイムの3D再構築システムを使用して、対象組織を追跡・確認し、成功率を向上させます。高精度なシステムにより、将来的には部分的または完全自動化された手術も可能となります。
エンターテイメント
- デジタル資産の作成: 拡張現実(AR)、ゲーム、映画業界では、3D再構築を活用してデジタル資産を作成し、仮想環境のリアリズムとインタラクティブ性を向上させます。
- 動的な相互作用: リアルタイムの3D再構築により、デジタル世界との動的な相互作用が可能になり、参加者が仮想上の要素と自然にやり取りできるようになります。
技術的背景:SfMから最新手法まで
物体やシーンの3D再構築は長年にわたって注目されてきた分野ですが、Neural Radiance Fields(NeRF)(備考※1参照)やGaussian Splatting(備考※2参照)などの深層学習技術の進展により、より高精度かつ詳細な再構築が可能となり、その可能性が大幅に広がっています。
従来の手法では、3D再構築はStructure from Motion(SfM)などの手法に依存していました。SfMは複数の2D画像から特徴点を抽出し、三角測量を用いて3Dシーンを再構築します。この方法の効果は画像のテクスチャなどの特徴に大きく依存します。例えば、レンガや木材のような質感のある表面や、フィギュアのような詳細なオブジェクトでは、多くの特徴点が存在するため良好な結果が得られます。しかし、不透明な表面(例:ガラス、窓)や無地の物体では特徴点が不足するため、正確な再構築が難しくなります。
上記のような問題に対応するため、無地の物体にパターンを投影して人工的なテクスチャを作成する技術などが用いられてきました。しかし、これらの工夫をしても、正確に再現することが困難なシーンが存在していました。
NeRFやGaussian Splattingといった深層学習技術の登場により、3D再構築は大きく進化しました。これらの技術は、これまで画像だけでは再現が難しかったシーンの再構築を可能にしました。
これらの高度な技術は、人工知能(AI)や機械学習などの他の技術と組み合わせることで、3D再構築の能力をさらに強化しています。AIは再構築プロセス中にエラーを特定・修正することで、より正確なモデルの作成に貢献しています。また、高解像度カメラや高性能GPUといったハードウェアの進歩により、大規模なデータセットをより効率的に処理できるようになり、リアルタイムでの3D再構築が可能になりました。
NeRFやGaussian Splattingの技術的進歩は、3D再構築の精度と効率を向上させるだけでなく、その応用範囲をさまざまな業界へと広げています。建設分野でのデジタルツインの作成から、エンターテイメント分野での没入型体験の提供まで、3D再構築の可能性は拡大し続けており、さらなる進化と新たな機会が期待されています。
【備考】
※1
NeRF:ニューラルネットワークを用いてシーンを連続的なボリュメトリックフィールド(3次元空間全体をデータ化し自由視点からの再構成を可能にする技術的概念)として表現し、非常に詳細でリアルな再構築を可能にする技術
※2
Gaussian Splatting:シーンの情報を確率的にモデル化する手法で、シーンの各点をガウス分布(正規分布)として表現し、その分布を複数の視点から合成することで、詳細かつリアルな3Dモデル生成を可能にする
従来手法の課題と新技術による解決策
従来のStructure from Motion(SfM)技術は、質感の豊かな物体を再構築する際に効果的であるものの、特定の種類の表面や物体に対しては課題を抱えています。例えば以下のような例が挙げられます。
毛羽立った表面
布地や毛皮のような毛羽立った表面では、特徴点の正確な三角測量が難しいため、SfMは苦手とします。これらの表面は、複数の画像間で信頼性の高い特徴点として一致する明確で安定したポイントが不足しがちです。
髪の毛や細い物体
髪の毛をはじめとする細い物体は、微細なディテールや実質的な表面積の不足により、アルゴリズムが正確な特徴点を取得することが困難です。その結果、不完全または不正確な再構築が発生します。
背景の干渉
三角測量プロセス中に、SfMはシーンの背景色を物体表面の色と誤認して取り込むことがあります。この問題は、特に細い特徴や半透明な特徴を持つ物体において、再構築モデルに不自然さや不正確さをもたらします。
不透明または無地の表面
SfMは特徴点を特定する必要があることから、テクスチャの存在に大きく依存します。ガラスのような不透明な表面や無地の物体では特徴点が不足するため、正確な再構築が難しくなります。人工的にテクスチャを作り出すためにパターンを投影する手法もありますが、必ずしも実用的または効果的ではありません。
近年、Neural Radiance Fields(NeRF)やGaussian Splattingといった深層学習技術の進歩により、これらの多くの課題が解決されてきました。これらの手法は、ニューラルネットワークや確率モデルを用いてシーンを連続的なボリュメトリックフィールド(3次元空間全体をデータ化し自由視点からの再構成を可能にする技術的概念)として表現し、より正確で詳細な再構築を可能にします。SfMとは異なり、これらの技術は、毛羽立った質感、細い特徴、半透明な素材を含む複雑な表面や物体にも対応できます。しかし、カメラが十分な情報を取得できていない領域では、アーティファクト(不自然なノイズや誤差)が発生することもあります。
左:従来の SfM 技術を用いて作成した「ほこり取り」の画像
右: NeRFを用いて生成した画像で毛先の状態がよりリアルに生成できていることが分かる
まとめ
この記事では、3D再構築の発展と応用、またNeural Radiance Fields(NeRF)やGaussian Splattingといった技術を紹介してきました。これらの手法はモデルの精度と詳細度を大幅に向上させ、建設、歴史的建物の修復、医療画像、エンターテイメントなどのさまざまな業界に影響を与えています。SfMなどの従来の手法は、特定の表面や物体に対して課題を抱えていましたが、深層学習技術はこれらの多くの問題に対応し、より正確でリアリティある再構築を可能にしました。AIと高度なハードウェアの組み合わせは、3D再構築の能力をさらに強化し、さまざまな分野における進展と新たな機会をもたらしてくれます。ビジネスの成長と新たな価値の創出に向けて、ぜひ最新の3D再構築技術を導入してみてはいかがでしょうか。
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